マルチタスクを省エネでこなす脳の仕組みを解明 – リソウ
仕事の段取りをする時のように、目的を持った一連の行動を効率的に達成するためには、進捗に応じて今やるべきことの情報を、脳内でタイミングよく生成する必要があります。大阪大学大学院生命機能研究科 ダイナミックブレインネットワーク研究室 渡邉慶准教授らの研究グループは、大脳皮質の前頭連合野の神経細胞(ニューロン)が、このような複雑な課題における順序だった情報の活性化(想起)と不活性化を担っていることを発見しました(図1)。
例えば以下の仕事の段取りを想定し、5個の課題を順序良くこなす、という状況を考えてみましょう(図1下段)。
1) Aさんにメール
2)会議のメモを作成
3)部長に報告書を提出
4)Bさんに電話
5) Cさんと待ち合わせ
脳は5つのことをすべて覚えていなければなりません。脳の前頭葉にはそれぞれの内容を仕事の完了まで覚えておくニューロン(神経細胞)があることが知られています(図1上段)。ここでは5個の課題に対応した5個のニューロンがあるとします。従来は、ニューロンは仕事の完了まで活動し続ける、と考えられてきました。すると、最初は5個全部が活動していて、1つこなすたびにoffになって、4,3,2,1,0と減っていくと考えられます。でも仕事は1つずつ実行するので、5個の情報が同時に必要になるわけではありません。必要な課題の記憶をタイミングよくONにすることができれば、エネルギーが節約できます。
本研究から、脳は本当にそうしていたことが明らかになりました。1番のニューロンは課題①のときだけ、2番のニューロンは課題②のときだけ……5番のニューロンが課題⑤で活動して、仕事の段取りが完了、という具合です。本研究は、複数のステップを実行してゴールを達成する認知課題をサルに実行させ、前頭連合野と頭頂連合野のニューロン活動を解析することで、このような合理的なメカニズムが本当に脳内に存在することを明らかにしました。本研究の成果は、高次脳機能障害のひとつである遂行機能障害のメカニズムの解明、認知症など複雑な段取りをこなせなくなる病気との治療法の開発に貢献することが期待されます。
本研究成果は、米国科学誌「Nature Communications」に、8月19日(土)(日本時間)に公開されました。